2012.01.16 Monday
『カフェ・ド・フロール』特別上映

年始めに見た映画'Café de flore'を再び見てきました(私の書いた感想はこちら)。それというのも、前に行った劇場ではダメージを受けてしまったフィルムの代わりにデジタル上映がなされ、画質も音もイマイチだったのです。それで、もう一度いい環境で見たいと思っていたし、カナダ映画トップ10に選ばれた作品の特集上映がTIFF Bell Light Box(映画館だけでなく、トロント国際映画祭のオフィスも兼ねているビル)で行われていたこの日は、監督のジャン=マルク・ヴァレも上映に立ち会うということで、この機会を逃すものかと行って来た訳です。
事前に私の分もチケットを買っていた友達を待っていたら、地下鉄が遅れているとかで上映時間ギリギリまで来ず、いい席が残っているか不安になり『こんなことなら自分でチケット買って入るか…』と少々苛立っていたら、会場に到着した監督を発見して挨拶ができました(既に映画を見て「ほんっと凄い人だわ!」と思っていたので、初対面だと恐れ多くてまともに話せなかったです。こんなに緊張したのは久々だな)。
二度目の観賞は初めて見たとき以上に、この作品で掛かっている音楽(プレイリストはこちら)の全てが映像に見事に溶け込んでいる素晴らしさや、構成の美しさにただ感嘆するばかり。そして上映後のQ&Aが興味深かったです。録音機器とか持っていた訳でないので、覚えている限りでサクっと書き出すとこんな感じ。
Q:映画で使用されている楽曲に関して
A:数年前にMatthew Herbertの'Café de flore'という曲を初めて聴いてから、同曲の別バージョンがあることも知り、その曲に関する映画の構想をずっと頭に思い描いていた。また別に、自分の好きなアーティストのミュージックビデオにダウン症の子供達が登場していたのにも影響を受けたよ。自分にとって音楽は不可欠なもので、この作品の着想も全て音楽から得たし、脚本を作る時も始終聴いていたね。
Q:キャスティングに関して
A:ヴァネッサ・パラディを母親役として選んだのは、キャスティング段階で映画の予算内に収まる女優をリストアップしたら、その一番上にいたのが彼女だった。実際、彼女自身も母親だしね。脚本を送って反応を訊こうとしたら、ヴァネッサに「丁度、子供が病気で世話をしていたのでまだ読んでいない」と言われたので後日改めて連絡を取り、彼女の脚本への感想や考えを聴いたらとても意欲的だったので出演してもらったんだ。
DJ役には、実際ミュージシャンを配役したいと考えていて、何人かに脚本を送ってみたところ、直に連絡が来て個人的に会ったのがケヴィン・パランだった。年齢もルックスもちょうど良かったし、多分、彼の中でも自身のキャリアにおいて歌手だけに留まらない何かをしたかったのだと思う。オーディションでは、精神科医と話をする場面や恋人にプロポーズする場面などを演じてもらうと非常にリアルな感情が込められていたし、これまで演技経験の無かった彼を起用することへの不安は無かったよ。
ヴァネッサ・パラディの息子役を演じたダウン症の少年ローラン(マリン・ゲリエ)を探すのが実は一番難しかった。カナダ、フランス、ベルギー、スイス…と、フランス語圏に住むダウン症の子を4ヶ月くらい探し続け、モントリオールのシーンを全て撮り終えた後も(注:この映画はフランスのパリと、カナダのモントリオールが舞台)見つかる見込みが無くって、「畜生!これじゃぁ映画が出来ないじゃないか!」と半ば自棄になっていた頃、先にローランのガールフレンド役になるダウン症の少女が見付かったのだけれど、会話もある程度出来る女の子でね、「実は、私の好きな男の子もダウン症なの」と話したものだから本当に興奮しちゃって、「是非、その子に会わせてくれないかな?」って頼んでようやく決まったんだ。あれは、まったく幸運だったというしかないな。
Q:過去と現在、それぞれ別のストーリーをどうやって一つにまとめあげたのか?
A:自分で編集したからだよ(笑)。1969年のパリと2011年のモントリオールのシーンが交互に挟み込まれる訳だけれど、脚本を書いている時点で既に全体の流れは出来上がっていたし、その通りに沿って撮影したので殆ど無駄が無かったと思う。前に監督した『ヤング・ビクトリア』は、ハリウッド映画で予算が大きい分、確実に結果を出すーつまり安定した集客が求められたし、制約だらけで自分のやりたいことがまともに出来ず、完成した作品を見ても、“酷くは無いけど、既にどこかで見たことのあるよう映画”って印象にしかならなかった。その点、今作では思う存分に自分を通した作品ができて実に満足したんだ。
Q:40年前のパリを再現するにあたって
A:今の時代に当時のパリを撮るって思った以上に大変で、例えば、学校の周りにはテロ対策でフェンスが張り巡らされていたり、ノートルダム寺院の外壁だって、今じゃ2年毎に掃除しているとかで真っ白で、すすけた感じがちっとも無いんだ(笑)。だから、数十年前の街並が撮られたフィルムをNFBC(National Film Board of Canada、カナダ国立映画庁)で借りて、7カ所ほど挿入しているよ。
当時使用されていた車や小道具などを用意したところで、やっぱり何から何まで物理的に再現するのは限界があるから、一旦パリのシーンを全部編集した上でVFX(視覚効果)を施した。使用したカメラに関して言うなら、抑制の利かない子供を撮るのにフィルムカメラでの撮影は不可能だったので、全てをデジタルーREDカメラで撮ってから、その後でフィルムの質感を出すようにデジタル処理したんだ。そうやってノートルダムも薄汚くしてね、一見そうとは分からない細かな部分にまで手が加えられているし、VFXを手掛けたスタジオの働きぶりは本当に素晴らしいものだったよ。
Q&Aが終わって会場から出た後、ジャン=マルク・ヴァレに映画チケットにサインを貰ったついでにまた話ができました(この時は二度目だったし、もう全く緊張してなかった 笑)。
私は、特に母親役のヴァネッサ・パラディと息子マリン・ゲリエが登場する場面は本当の親子の様でとても好きだったのですけれども、ダウン症の少年に演技指導を行うのはまず無理で、全てが演技では無く素だったそう。少年が右へ行くか左へ行くかは毎回予測不可能で、ヴァネッサ・パラディとカメラが少年の後を追う感じで収録していた、と。カメラが回っていようとも、突然、カメラの背後にいる自分に向かって「大好きっ!」なんて笑顔を振りまくものだから、彼の注意を引かないように気をつけたんだよね、とかいちいち微笑ましい。
いろいろ突っ込んだ質問の全てに明瞭な答えをもらって、この作品の二十、三重にもなっている脚本―というか彼の考えにほとほと衝撃を受けてしまった訳ですが、これ以上はスポイラーになっちゃうので控えておきます。
日本も早く劇場公開して欲しいのに、「それが、日本の配給会社からは全く声が掛からなかっていないよ。僕も日本に行きたいのにねぇ」と言われて驚き。今回上映とQ&Aを担当したTIFFのプログラマーの方も「Really?! What a shame(本当っ?!それは残念だ)」って反応でした。せっかくいい作品なのに勿体無いなー。
























